ニチアス株式会社に対する損害賠償請求訴訟で勝訴しました。石綿肺管理2の管理区分決定を受けていることに対して、「石綿肺ではない」とする被告の主張を岐阜地裁は明快に斥けました。名古屋高裁は被告の控訴を棄却し原判決を維持しましたが、被告は最高裁に上告しました。
原告は、ニチアス退職後の平成29年に石綿肺管理2、合併症として続発性気管支炎の管理区分決定を受けました。そして、平成30年11月15日、ニチアスに対する損害賠償請求訴訟を岐阜地方裁判所に提起しました。令和6年1月31日、岐阜地裁は、1430万円(弁護士費用10パーセントを含む)の損害賠償を命じる判決を出しました。
原告は、岐阜県羽島市所在のニチアス羽島工場に昭和34年から勤務し、石綿含有保温材の製造、吹付石綿材の製造業務に約4年間従事しました。保温材製造では主に乾燥させた保温材をトロッコに載せて工場内を移動させる際や製品の切断等で出る石綿粉じんが飛散する仕上場における作業時に、吹付石綿材製造では「別荘」と呼ばれていた建物内で、コンクリートの床に粉砕した石綿やその他の材料をぶちまけてスコップで混ぜ合わせる作業、石綿の原綿を開綿機で細かく粉砕する作業の際に、大量の石綿粉じんにばく露しました。特に別荘での作業は、隣で作業する者の顔を見分けられないほどのすさまじい粉じんの中での作業でした。そのような酷い粉じん作業であったにもかかわらず、ニチアスは十分な粉じん対策をしていませんでした。
被告ニチアスは、石綿粉じんばく露の事実、安全配慮義務違反の有無などすべての論点で争いましたが、最大の争点となったのは、被害者が石綿肺に罹患しているか、罹患しているとしてその程度でした。岐阜地裁は、被害者が岐阜労働局長から管理2の管理区分決定を受けていることを重視して、その場合、当該管理区分に相当する健康被害が生じている事実が強く推認されるとし、被告ニチアス側が提出した主張や証拠はその推認を覆すには足りないとして、被告ニチアスによる被害者は管理2相当の石綿肺に罹患していないとの主張を退けました。
判決の意義は、当然のことながらニチアス羽島工場における石綿粉じんばく露の実態及び安全配慮義務違反の事実を正しく認定したこと、主治医と地方じん肺診査医による二重の診査で担保されたじん肺管理区分決定を高度の信用性を有するものとして、当該管理区分決定を受けた被害者にはじん肺罹患、管理区分に相当する健康被害が推認できるとし、被告の側にその推認を覆す反証を求めることを明記した点にあります。
この判決に対して被告ニチアスが控訴し原審と同じ争点を争いましたが、8月8日、名古屋高等裁判所は控訴を棄却したため、ニチアスはさらに最高裁に上告しました。
なお当弁護団では、ニチアスをはじめ企業賠償についての事案を多く担当してきています。お気軽にご相談ください。ご相談こちらから。